statement
本作品において描かれるのは、「言語として成立し得なかった言葉」の痕跡である。画面上に現れる形態は文字性を想起させながらも、特定の意味内容へと還元されることはなく、鑑賞者による解読を拒む構造を持つ。ここでは、「読むこと」を前提とした言語の機能が意図的に攪乱され、「意味以前の言語的気配」が提示されている。
このような表現は、現代社会における言語の生成と消失のプロセスとも接続している。とりわけインターネット空間においては、愛情、後悔、憎悪といった強度を持つ言葉が日々生成される一方で、同時に膨大な速度で忘却され、消滅していく。本作は、それら「確かに存在したが保持されない言葉」を主題化し、その不可視の痕跡を画面上に定着させようとする試みである。
さらに、それらの形態は自然由来の色彩と融合することで、「時間」および「自然」という大きな循環の中へと包摂されていく様相を示す。ここでは言葉は固定された記号ではなく、時間経過とともに変容し、やがて風化していく存在として扱われている。
素材として用いられるアルミ箔や断熱材は、いずれも日常生活に由来する物質であるが、本作においてはそれらが削られ、埋め込まれることで、「言葉の風化」や「記憶の堆積」を視覚的に喚起する要素として機能している。とりわけアルミ箔の反射性は、鑑賞者自身の像を映し返す「鏡」として作用し、作品空間に自己認識の契機を導入する装置となっている。
以上の要素を通じて本作は、人間の感情と時間の相互作用によって生成される、不確定かつ流動的な領域──すなわち「狭間(あわい)」の状態を表象するものである。それは、言語と非言語、記憶と忘却、存在と消失のあいだに立ち現れる、可視化され得ない領域への探求として位置づけられる。
